はじめに
本書の目的
AI が人間の知能を超え、わたしたちを取り巻く環境に急激で予測不能な変動をもたらすとされるシンギュラリティの到来は目前と言われています。また、現在進行形の新型コロナウイルスの感染拡大は、今のこどもたちが成長していくこれからの時代がより一 層、不確実性を抱えた社会になることを強く示唆しています。これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起き、行き先が不透明な時代を生きていくことになる今のこどもたちには、自ら課題を見つけ、学び、考え、判断して行動する力が必須となり、より実践的に「考える力」が強く求められるようになります。
教育の現場も、急速な社会の変化に対応すべく、従来の暗記型から考える力を重視する思考型教育にシフトしてきています。2020年には 30年間続いたセンター試験が知識偏重として廃止され、大学入学共通テストへ移行しました。大学入学共通テストでは、 資料読解力を問う問題や、資料からの情報と教科書からの知識を関連づける力を問う問題、多分野横断的アプローチによって総合的に考察する力を問う問題などと、より考える力を求める問題に比重が置かれるようになりました。小学校でも 2020 年に10 年ぶりに学習指導要領が改訂され、教科を横断する授業や、情報活用能力を育てる教科などが取り入れられ、こどもたちの考える力を育成していく必要があります。
またもう一方で、「SDGs(持続可能な開発目標)」の教育も重要なテーマになっています。国連で2015 年に採択された SDGs によって、世界が一丸となって地球環境問題 や社会問題などの解決に取り組んでいくことが決められました。SDGs は全世界参加による社会構造の変革を求めており、今のこどもたちにとってSDGs の影響から逃れることは不可避です。また達成が困難で何十年もの月日を必要とする長期目標であることから、将来の SDGs 主導者を育てていくことが日本だけでなく世界においても重要課題になっています。前述の学習指導要領にも、「持続可能な社会の創り手となることができるように」こどもたちを教育することが必要であると明記されており、SDGs 教育の重要性がこれからより一層増していくこととなります。
『算数・社会・理科でSDGs がわかる!ー考える力をきたえるワーク』は、こうした時代の動きを踏まえ、新たな時代を切り拓いていくこどもたちのために考案されまし た。本書を利用することで、
1) こどもたちの考える力の礎となる「算数/社会/理科の知識・技能の活用」と「読解力の向上」によって確かな学力を育成し
2) 教科を横断するアプローチによって総合的に SDGs・環境・社会の課題を読み解く力を育て
3) 実践的に考える力の育成を促すこと
ができることを目標としています。「【SDGs にまつわる生の情報】と【教科書で学ぶ知識】を結びつけることにより、学力を磨き、考える力を育てる」ことが、本書が最終的に達成を目指すところです。
『算数・社会・理科でSDGs がわかる!ー考える力をきたえるワーク』は、小学5年生を対象にし、本書に取り入れている練習問題や SDGsは、小学5年生が教科書で学習する内容に関連する項目が中心になっています。この学年段階は自立心が育ち、色々なことに興味・関心を持ち、やってみたい、見てみたいという欲求が旺盛になり、物事に対して自ら進んで働きかけることができるようになってきます。また、得意教科や苦科が出てきて、教科の好き嫌いがはっきりする一方、授業で学んだことを自分でもっと詳しく調べたり、自分で興味をもったことを学校の勉強に関係なく調べたりと、主体的に学習に取り組めるようになってくる時期でもあります。こどもたち一人一人が課題を発見し、課題を解決しようとする態度、そして考える力を育てていくためには、自立心や主体性が大きく関わってくるこの小学5年生が非常に大切な時期であると捉え、本書の対象としました。
本書は、なるべく多くの学習機会に対応できるよう、自主学習用にも、総合的な学習の時間用にも活用できるように作成されています。自主学習には各練習問題に設けてある解説動画の活用を、また総合の授業には指導ガイドの活用をお勧めします。練習問題をプリントとして利用したい場合にはPDF版をダウンロードして印刷することもできます。なお、 ワークの題材を使った授業動画などを随時オンラインで配信しております。(詳細は [本書の使い方] をご覧ください)
最後になりましたが、第二版にあたり、2021年に世界で初めて気象分野でノーベル賞を受賞された真鍋淑郎博士のインタビュー記事を掲載させていただきました。真鍋博士は、戦後間もない混沌とした時代に渡米され、さまざまな問題にぶつかりながらも解決策を模索され、新しい研究分野を切り開き、誰も到達できなかった偉業を世界で最初に成し遂げられました。博士が進まれた未知の世界への果敢なる挑戦は、これからこどもたちが迎える未知の世界への挑戦への力強い勇気と支えになるものと考えます。インタビュー記事から何かを感じ取り、これからを生き抜くヒントとしてもらえたらこれ以上の喜びはありません。博士とのご縁を導いてくれた大学院からの親友・プート真智子さん、ご自宅に快くお招きしてくださった信子夫人、そしてなにより本書の趣旨に賛同してくださり、インタビュー記事の掲載を快諾してくださった真鍋淑郎博士にこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。
本書の活用が、こどもたちにとって、時代を生き抜くための必要不可欠な能力を獲得する一助となること、また SDGs への関心を高め理解を深める契機となることを強く願っています。
2023年9月5日
Blueggs Environmental Education 代表
山口日出夏